手紙 (文春文庫)
強盗殺人犯の弟である主人公:直貴の人物設定に、やや「いかにも小説的(イケメンで歌がうまい、など)」な部分がありますが、それよりも直貴の周囲の人々が、大変リアルに描かれている印象の方が強いと感じました。
犯罪者の家族に対し、全面的に味方をする人々や、逆に極端に差別をする人々も出てきますが、それよりもここで多く出てくるのは、「理性的には「差別はいけない」と認識しているから、あからさまな差別的発言はしないけど、本能的には「犯罪と名のつく、あらゆるものからできる限り遠ざかりたい」と感じ、実際、できる限り関わらないようにする」という人々。
これを「逆差別」という言葉で表現していますが、現実として一番多いのではないかと感じました。
また、「差別はあって当然。犯罪者の家族はどうすることもできない。」という言葉が出てきたとき、著者はずいぶん思い切ったことをしたものだと思いました。
しかし、犯罪者の家族をとりまく現実を考えた時、こういう考え方があるのも事実(正しいかどうかは別として)。
つまりそれだけ、罪を犯すということは、本人のみならずその家族も、人生を狂わされるということ。
著者はそんな現実を、「正しいかどうか」という著者自身の主観を一切交えることなく、ひたすら描いています。
だからここで出てくる「犯罪を犯すことによりその家族をも巻き込む過酷な現実」に対し、思うことはあっても、奇麗事を一切交えずに描ききったことは評価に値すると思います。
ただ、星を1つ減らしたのは、直貴を言い表す言葉が、「直貴は」と「彼は」が混用されていて、とまどうことが多かった点ですね。
レベル7(セブン) (新潮文庫)
私は久しぶりにミステリーを読んだのだが、このレベル7はとても面白かった。いくつか、それぞれにストーリーが展開され、最後まで、想像のつかない展開になっている。レベル7ってなんなの?って思ってこの本を手にしたのであるが、読んで良かったと思う。とにかく、ラストまでレベル7の意味自体もわからないし、どのようにストーリーがつながっていくのかと考えながら、楽しみながら、あっという間に読んでしまえる本である。
どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)
犯人を特定していく過程が面白くて一晩で一気に読んでしまった。
一気に読み終わった後は、謎解きのヒントを得るために即座に注意深く二度読み開始!
確かに注意深く読んでいれば、おのずと犯人は特定される。
しかし、最後には当然犯人が明かされると思って読んでいたので、一度目の読了後はさっぱりわからなかった。
東野氏は
「最後には犯人が明かされる」
という推理小説の常識をひっくり返した。
この暗黙のルールに慣らされている読者に対しての挑戦であり、ミステリの可能性をまた新たに広げたと思う。
非常によく練られた秀作。
東野氏の引き出しの多さには、毎回感心させられる。