ウイントン・マルサリスの肖像
本作が登場した頃は、ジャズフュージョンバブルの絶頂期、この人まるで音楽版シーラカンスって印象でした。当時のベテランフュージョンミュージシャンは「60年代を復古するこタアない」なんてあからさま。復活マイルスが福音をもたらしてくれないと知った、ジャズを食い物にしている人達は「新伝承派」などと御神楽保存会みたいな持ち上げ方で滑稽の極みでしたン。ところがアコーステイックジャズでもまだお金になると知ったベテランさん達はコロリンと何食わぬ顔で60年代に逆戻り。保存会のおじさん達も放蕩息子の帰還に赦しを、メデタシメデタシ。ジャズの素晴らしさって博物館のお芸術なんかでは無く、今を生きている奏者のビートが聞き手の心を響かすその時代の流行音楽ってとこなのネ。生きている人とその音が、標本箱や宝物堂になんておとなしく納まってるワケないジャン。
20年も経ってみると、この人のエラさは、当時は斜陽化してた4ビートジャズにも需要アリとビジネスチャンスを見つけた事でも、技術を武器にクラシックとの交流した事でも、新伝承派御一行様の先兵となった事でも無く、自分のやりたい事を徹底的にやり続けた誠実なガンコ石頭そのものだったんだナアなんて感じます。
クラシック・ウイントン~ベスト・アルバム~
ジャズの世界で活躍しているマルサリスですが、クラシックも絶品です。
ベスト盤ですが、「聖グレゴリウスの祈り」は他のアルバムに入っていない曲です。私はこれが目当てで買いました。
ややあっさり目の演奏で、マルサリスらしい冷静、繊細さが感じられます。
ワンダフル・ワールド:ルイ・アームストロング ストーリー [DVD]
人種差別激しい時代を生き抜いてきた彼が、「素晴らしき この世界」と歌う。
ビリーホリデーの「奇妙な果実」に匹敵する重さ。
DVDの中で「小さな冷蔵所を開け、卵が6個。食べるものにも困らない」と語ったというエピソード。飽食の時代、情報過多の時代に・・本物の「素晴らしき 世界」を問いかけていますね。
Standard Time, Vol.3: The Resolution Of Romance
これは素晴らしい作品。ウィントンと言う人はあまりに突出した才能があるひとなので、隙のない非常に密度の濃い作品ばかりなのだが、そのあまりの完璧主義さのために冷たくきこえるものも多い。個人的には彼のアルバムでは彼が敬愛の情を持っているプレイヤーと共演しているものに非常に良いものが多い。本作はその筆頭格。これとエルヴィンとやったやつは本当に素晴らしい。ウィントンがリスペクトし、そのリスペクトを存分に受け止めることのできるプレイヤーがいないのがウィントンにはある意味不幸なことなんだなぁと、聞く度に思います。よい作品です。