赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
未来が視えるという万葉の不思議な力。その力は、製鉄業を営む赤朽葉家を
窮地から救ったこともある。しかし、自分にとって大切な人たちの未来を
視てしまうこともある。未来を知ってしまっても変えることはできない。
ただ運命に向かって突き進む人たちを見守ることしかできない万葉の姿は、
胸を打つ。また、時代が大きく変わる中、流されることなく己の信念を貫き
通した万葉の娘毛毬の生きざまはすさまじい。生きるということは、こんなにも
激しいことなのか。ラストの毛毬の娘瞳子の万葉への思いには、ほろりとくる
ものがあった。赤朽葉家に関わる人々が織りなす物語も、切なくてほろ苦い。
これから、瞳子そして私たちが生きる未来はどうなっていくのだろう?自分
自身の人生についても、考えさせられるものがあった。
GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)
自分の場合は表紙を見てビビッ!ときて買いましたが、
なんと!読んでもサイコーでした。
あっ、でも……純粋にミステリーが見たいって方は、
いまひとつって感じになっちゃうかもしれません。
でも、とにかく読みやすいのでおすすめです。
ドラマCD GOSICK-ゴシック-
富士見ミステリー文庫のお菓子とフリル要素担当、『GOSICK』のドラマCDです。内容も、ビスクドールのような少女ヴィクトリカが、冴えない東洋人久城一弥に世話を焼かせながら、なんとなく事件を紐解いていくゴシック・ミステリーです。
物語は物凄く長いです。最後のトラックに3分程度、斎藤千和さん入野自由さんのコメントがある以外、CDまるまる一本ドラマになってます。声優さんたちも、あまり詳しくない私が名前を知っている人たちばかりで、ボリュームもクオリティも原作さながらの豪奢さでした。
とっても残念だったのは、CDオリジナルのストーリーではなく、原作にある物語をトレースしているところでした。具体的には『GOSICKs―春来たる死神―』の第一章から第四章までの内容。原作を1巻から読んでいくと、5冊目で主人公達の出会いを描いた物語があるのは新鮮に感じましたが、原作の読者にしても、ドラマCDで初めて『GOSICK』に触れる人に対しても、どうかな〜?と思わざるを得ないチョイスでしたね。
あとセシル先生役の堀江由衣さんの声が目立ち過ぎでした。もう少し地を出さずに、おっとりした声で演技して欲しかったと思います。
とても優しい内容ですし、子安武人さんのちょっとおどけた演技とか、雪野五月さんのアドリブとか、原作を知らずとも聴き応えのあるものだとは思います。でも熟知した内容なので、そう何度も聴きたいとは思えません。もし次があるのなら、ぜひオリジナルストーリーを書き下ろして貰いたいと思います。期待を込めて星3つ。
GOSICKVI ―ゴシック・仮面舞踏会の夜― (角川文庫)
6作目『GOSICK V ベルゼブブの頭蓋』の明確な続巻である今巻は、
海に孤立した修道院から脱出した主人公ふたりが乗った列車の中で幕を開ける。
ひとつのコンパートメントに乗り合わせた面々が、その場限りの名前を名乗り、
お互いに自己紹介をする。皆一様に何かを隠し、その演じる役名は…
自分の誕生日を探す黒髪の少女<孤児>、お忍び旅行中の温和な中年の婦人<公妃>、
攫われた妹を探す貴族風の青年<木こり>、溺れ死んだ男の体を乗っ取ったという大男<死者>、
そして、金髪の天才美少女ヴィクトリカこと<灰色狼>と、そのまぬけな崇拝者一弥の<家来>。
―人間が咄嗟に吐く嘘には、本人の意思に反して、何かしらの真実が含まれる―
<孤児>がうっかり落とした赤い箱。それを皮切りに、それぞれの思いを乗せて
列車オールド・マスカレード号は、夜を走り抜ける…
さて、今巻ばかりは何故こんな構成にしたのか、理解に苦しむ。
事件が起きるまでを第一部とし、容疑者3人の証言と、犯人が己の証言を回想する第二部、
エピローグで締め、という形式になっているのだが、この最後の回想がまずい。
3人の証言で本人・周囲の描写を一切排して、語りだけで読まされたあと、犯人が確定。
その犯人が自分の証言を回想する形で、つまり証言と全く同じ文章のところどころに
「心の中の声」を入れ込んだ文章を、読者は再び読まされるのだ。
これは、例えば漫画であれば「絵ではなく台詞だけで説明する」という最悪のパターン。
そして、既刊でも度々書いたが、簡単な単語をひらがなで書く―所謂「ひらく」語句が多過ぎ。
「うつくしい」等は、その語句の持つ意味を強めたい故であろうが、
この作品にはこの言葉が余りにも多用されるため、言葉の印象自体が薄まってしまう。
p180〜などは、「かんじんの」「おもしろかった」「ほんものの」「おそるべき」「ちいさく」
「ちくしょう」「だいじょうぶ」「ぜったいに」「おどろくほど」「いっぱい」…キリがない。
冒頭から暗喩比喩を駆使した、この作者らしい装飾の多い文章に何とも不釣り合い。
また、p186「無事に帰ってはこまい」…こまい? 帰ってはきまい、では?
どちらにしろ「来まい」にしておけば良かったのではないか?
そして毒殺のトリックは、被害者が苦しみ出した時点の伏線で早々と見抜ける程度であるのに、
長々と引っ張り過ぎ。登場人物の正体も、同じ。とにかく簡単過ぎる。ヒントが多過ぎる。
そんなこんなで唯一良かった点は、主人公ふたりのお互いへの気持ちがランクアップしたところ。
名付けようのない感情から、はっきり愛情へと変わり、かけがえのない存在として意識する。
そこに出てくる「正しい弱さ」という表現が、作者が年若い読者に一番伝えたい言葉ではないかと思う。