将棋の子 (講談社文庫)
通勤バスの中で読んでいて涙が止まらなくなって困った。
子供の頃。歌手になりたかったり、作家になりたかったり、会社員なら社長になりたかったりする。しかし、多くの人は人生のどこかで、才能や努力の限界点を悟り、それ以上の努力をしても、目標に届かないことを自覚するときがくる。子供時代の夢をかなえる人なんて、ほとんどいない。
問題は、どこで見切りをつけるかだ。プロの将棋指しを目指すということは、目標がとても限定されているだけに、達成できなかったときの無惨な状態は、とんでもない挫折なのであろう。自分自身の存在意義を全部否定されることになるからだ。これは、普通の社会人と比較にならないほどの挫折かもしれない。
筆者は、天才だけをぎっしりと集めたプロ将棋の養成機関の世界で、彼が、無惨に淘汰されてゆく過程とその後を、30年の歳月を経て追跡した。このルポを書きたいがために、将棋雑誌編集長を辞して、無職となって、ずっと気になっていた同郷の将棋の天才少年の人生を、追うのだ。
いわば、書き手もこのルポに命を賭けているので、この本がつまらないはずがない。ぎりぎりのところで攻め続けてゆく、とてつもない緊張感は、まるで将棋の勝負そのものだ。
筆者が追跡した天才少年は、プロの養成機関である『奨励会』に入会するが、プロにはなれなかった。彼の将棋に人生の全部を注いでくれた母に、そのことを告げる日がやってきた。癌で死期が迫る母親に、それを告げる彼。
この告白の場面で、俺はバスの中で泣いた。
小説なら、その場面で終わりだろうが、現実は、その後も続く。それからの彼がどう生きているのか。
『奨励会』をやめてからの破滅的なその後の彼の人生。彼のことを、俺は笑えるだろうか。プロ棋士になれなかった彼を、天才たちの中では、輝くことができなかった彼の人生を、無惨なり!と断言できるだろうか。
そんなことは決してできない。
この筆者には、夭折した超天才棋士・村山聖八段を描いたルポ『聖(さとし)の青春 (講談社文庫)』もある。こちらの方も、病魔に没した一流棋士を描いた優れた作品なのだが、個人的な情念を込めた『将棋の子』は、読後に異様な高揚感をもたらす神憑かりなできばえのノンフィクションなのである。
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良いですねこの映画やっぱりセカッチューみたいになりますけど
音楽もまったりとした雰囲気も良いし 阿部寛さんもメチャクチャ良いです
時間を感じないし素敵でロマンチックで上品って言葉がピッタリの映画です
聖の青春 (講談社文庫)
何度読んでも泣ける本を誰でも一冊くらいは持っていると思うが、私にとってはこの『聖の青春』がそれです。
何度読んだか分かりませんが、泣かずに読みきれたことは一度もありません。
本書は29歳で夭折した棋士・村山聖の物語です。
幼くして病気に侵され、周りの患者が次々と死んでいく病院で将棋を覚えた少年時代。
若くして頭角を現すも、常に万全の体調では闘えない日々。
師匠・森との親子関係をも超えた結び付きに、
ただ「名人」を目指し駆け抜けた29年の生涯に、
思うに任せない状況の中でかくも純粋に生きた村山聖という人間に、
胸を締め付けられずにはいられない。
死を傍らにみるということは、本当の意味で「生きる」ということなのかもしれない。
純粋に生きるということは、こんなにも尊いものなのか。