私の松本清張論―タブーに挑んだ国民作家
松本清張の文学は、強い者へ批判、鋭くて、重くて、深い。しかも娯楽性も兼ね備えていて楽しませてくれる。
こういう文学はめったにない。
自分ではこうとらえてきた松本清張についてこの著者がどう書いているかに興味をもって求めた。最初、本屋でこれを見つけるまではもっと厚みもあって中身も重厚なものと勝手に想像していたが違った。本自体は薄くて装幀も軽快な感じのものであった。肝心の中身は評論ありがちな難解な部分はなくすらすら読める。著者の松本清張を敬愛する気持ちが込められた文章がつづき共感する箇所も多かった。
この本を読んだ後、松本清張はもっともっと多面的に評価されていいんだと思った。
154頁から186頁までの註釈付略年譜では著者が<註釈>を付していて、非常に興味深く読めた。特に、清張が仲にはいって共創協定の件の解説はよきできていてその見方には教えられた。
茜色の空
「アーウー」「鈍牛」などと形容されることの多い大平正芳の、辻井喬による伝記である。辻井の筆によると、そのように云われる大平は、その実、哲学ないし理念をしっかりと持ち、それに裏付けられた政策を実行しようとした政治家だった。それは、学問を重用し、時には学者の意見もよく聞き、現実をも直視したという大平の性向による、というところが描かれている。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作と続いた保守本流の、対米依存、平和優先、経済成長を旨とする主流を引き継いだ政治家だった、と読み進めながら思い至る。自民党総裁に立候補するにあたって掲げ、総理として実行を目指した「総合安全保障戦略」「田園都市の建設」「家庭基盤の充実」という基本政策や21世紀まで見越した構想にそれらは凝集されている。さらに、辻井による文章の故か、大平に豊かな感性をさえ感ずることもできる。
近年の歴代首相には、国民の広範な支持を得られるような根拠のある理念と政策が見られなくなっているが、それが、社会経済の混迷に適応できない政治、というところに根があるとはいえ、日本の歴史にとって良いことではない。保守であれ、革新であれ、あるいは改革派であったとしても、しっかりした哲学、理念をもって、堅実に国をリードする政治家が待たれていることは確かなことであろう。そのことを、ひとりの保守政治家の生涯をたどりながら考えさせられる伝記小説である。
ポスト消費社会のゆくえ (文春新書)
本書は、西武セゾングループのトップであった堤清二/辻井喬と、
同じくセゾンの社史の編纂にも携わりその組織と歴史にも明るい
社会学者/フェミニストの上野千鶴子の対談本だ。
タイトルには『ポスト消費社会のゆくえ』とあり、その「ポスト」と「ゆ
くえ」の言葉から現在から未来の方向に向けて語っている内容な
のかという印象を受けるが、読後の感想としてはむしろ、今までの
「消費社会」と辻井氏が構築し崩壊させたセゾン王国のその栄枯
盛衰を懐古するという内容と言える。50年代から70年代、70年代
から80年代、そして90年代以降、2008年現在というように時代を
区分し、上野氏が辻井氏に当時の状況を質問(詰問?)するといっ
た形式で進行する。
特にバブル以後の失敗など、徹底的にグループの失敗を上野が
追究し、また辻井も真摯に応えているところなど、今時の“当たり
障りない対談本”には終わっていない。
封建的な父への反逆心から清二氏が乗り込んだのが西武グルー
プであり、以後彼がそこから文化を発信していったというのは興味
深いが、それ以上にそんなそうはなりたくなかったはずの父の似姿
になってしまい、結果組織の危機的状況になるまでそれを把握でき
なかったというのは、やはり血は争えぬということだろうか。
また「汚い街」になり果てる前の渋谷にて、西武とパルコが繰り広げ
ていてた、先進的な方向に消費者を導いていくための啓蒙的な広告
の実践が、バブル前にはすでに失効していたというところなど、高貴
な理想は頓挫もまた早い、ということか?
あいにくこの本は、具体的な現状の閉塞を打開する方法は教えてくれ
ないがしかし、セゾンの歴史と70年代に花開く消費社会の一様を垣間
見れるという意味において、価値ある対談本だ。ところで、そんな辻井
さんの生み出したもので今もっとも輝いて見えるのが例の「KY(価格
安く)」の西友だというのは、歴史の皮肉だろうか。
ゴールデン☆ベスト 大塚博堂 シングルス
何年か前に偶然夜のカーラジオで聞いた「めぐり逢い紡いで」。そのときに大塚博堂の名前を知りました。甘く、切なく心に滲みるメロディと歌声、じーんときました。ネットで調べ37歳という若さで亡くなってしまったことを知り驚きました。CDを探したのですが見つからず、そのままになっていたのですが、なんとか欲しいと思いネットで検索してアマゾンで見つけることができました。他の曲もシングルになっているものを集めたということで期待を裏切ることはありませんでした。他のアルバムもいいと思いますが、まずはこれをお勧めします。