星降り山荘の殺人 (講談社文庫)
各章の始めに起こること、言うなればミステリの舞台裏が説明されて、それから本編を読み進めるという形式で、この章では伏線張ってあるだの、出し惜しみせず全てを曝け出す。これはもう“ミステリ入門書”とでも呼ぶべき代物ですね。ミステリの楽しみといえば、フェアに騙され、自分の思考力を疑い(笑)、酩酊に入ることだと思う。そういった意味では酩酊レベルMAXでした。注意すべきは、表向きのミステリ(ストーリー)だけを読まないこと。大事なのは作者が施した仕掛け!“ヤラれた”と思った時に気付いて下さい。“フェアだ”と思えたら、立派なミステリ読者!?
こめぐら (倉知淳作品集)
今やシリーズキャラクター<猫丸先輩>を擁して、“日常の謎”派を代表する本格パズラー、倉知淳。本書は、’94年の本格的作家デビュー以来16年の間に書かれた彼の単行本未収録作品を集めた、ファン垂涎・必携の短編集。姉妹編『なぎなた』と2冊同時刊行。
本書『こめぐら』は、’95年から’10年の間に各雑誌に掲載された5編と、ボーナス・トラックとして’97年発表でもちろん単行本未収録の<猫丸先輩>ものの1編からなっている。
「Aカップの男たち」(’09年):モチーフとなるテーマを“鍵”と指定され書かれた作品だが、それが倉知淳の手にかかると、なんかキモい男たちの密やかなオフ会を舞台にしたとんでもないお話になる。
「『真犯人を探せ(仮題)』」(’95年):在京ラジオ局の中でも最小最弱の大東京ラジオの番組企画「犯人当て懸賞ラジオ推理劇場」に秘めたディレクターの思惑。
「さむらい探偵血風録 風雲立志編」(’95年):時代劇の定番を徹底的にパロった本書収録作品中で一番のケッサク。
「偏在」(’10年):先祖伝来の不死の呪法に取り憑かれた男の荒唐無稽な結末。
「犯人(獣?)当て・非本格推理童話 どうぶつの森殺人(獣?)事件」(’06年):擬人化された動物たちがくりひろげる推理劇。結末よりその過程の特徴的な動物たちの描かれ方が面白い。
「毒と饗宴の殺人」(’97年):<猫丸先輩>が登場。彼にしては珍しく殺人事件を解決する。
本書『こめぐら』は姉妹編『なぎなた』に比べて、人を喰ったようなバカバカしさに満ちており、抱腹絶倒間違いなしである。
なぎなた (倉知淳作品集)
今やシリーズキャラクター<猫丸先輩>を擁して、“日常の謎”派を代表する本格パズラー、倉知淳。本書は、’94年の本格的作家デビュー以来16年の間に書かれた彼の単行本未収録作品を集めた、ファン垂涎・必携の短編集。姉妹編『こめぐら』と2冊同時刊行。
本書『なぎなた』は、’96年から’09年の間に各雑誌に掲載された7編からなっている。
「運命の銀輪」(’09年):完全犯罪を目論んだ男の、倉知淳にしては珍しい倒叙もの。刑事コロンボか古畑任三郎を彷彿させる個性的な警部が登場して、僅かなほころびから犯行を見破る。
「見られていたもの」(’97年):‘わたし’と‘私’の使い分けで見事に騙される叙述ミステリー。結末はちょっと気持ち悪いのは、やりすぎ。
「眠り猫、眠れ」(’97年):年老いた‘あたし’の飼い猫とだいぶ前に離婚した親父の死(殺されたらしい)をダブらせたお話。
「ナイフの三」(’96年):コンビニ前にたむろする4人組が、「指切り誘拐殺人事件」の犯人を見つけた?
「猫と死の街」(’07年):詩織の迷い猫を「殺した」というおっさんと「暴行障害致死事件」との関係は・・・。
「闇ニ笑フ」(’01年):最後の一行の衝撃(フィニッシング・ストローク)の逸品。ラストの一文で不可解な謎が全部氷解する。
「幻の銃弾」(’08年):ニューヨークを舞台にした本格パズラー。銃で射殺されたはずの死体からは銃痕は見つからず、死因は内臓破裂、圧死だった。
本書は、ちょっと長めの「あとがき」を含め、いずれも、人を喰ったようにコミカルで、それでいて一応謎が(一部の作品では完全ではないが)解ける、“倉知ワールド”が存分に楽しめる作品集である。