レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実
伝記の主人公レニは、ナチス・ドイツの独裁者ヒットラーのお抱え映画監督だった。自分が野心的な芸術家として成功するために、持てる総力を尽くした女性映画監督の草分けである。その作品の中でも、政治的プロパガンダ映画「意志の勝利」は特に有名だが、私はこの映画を観たことがない。さて、彼女が世に残したもう1つの傑作であるベルリン五輪の記録映画「美の祭典」と「民族の祭典」の芸術的な価値それ自体を疑う者は少ないだろう。ナチや日本軍部のファッシズム (侵略戦争)に強く反対した私の亡父 (ドイツ文学専攻) でさえも、あのドキュメンタリー映画には感服していた。また「アルピニスト」でありアマチュアカメラマンだった父は、彼女の冬山登山を題材にした雄大なロマン映画、例えば「モンブランの嵐」や「死の銀嶺」や「聖山」がとても好きだった。ちょうど20年前に他界した父がまだ生きていたら、この伝記をさぞかしむさぼり読んだことだろう。。。父は「女性映画監督の草分け」であるレニの活躍に喝采を送っていたからだ。
しかしながら、レニの人生には、彼女が残した美しい映画作品とは対照的に、非
常に醜い半面が多々ある。この伝記は、一般に知られざるその側面を客観的に、
我々読者に紹介している。著者 (スチーブン・バック) 自身も「天国の門」など
の問題作を多々てがけた映画監督であり、その後コロンビア大学などで教鞭を取
る経歴をもち、彼女の才能や人格を解剖するメスは極めて鋭い。レニは長生きを
して、101歳でとうとう胃癌のため数年前に他界したが、90歳に達した頃、
ベルリンの悪名高き壁が崩壊し、(戦後ずっと)西独のミュンヘンに住んでいた
レニに突然、母親の遺産(東独にあった別荘)が 転がり込んできた。彼女にはハ
インツという弟がいたが、 戦争末期に爆死した。彼には2人の子供(50歳前
後の息子の娘)がいた。他界した母 の遺書がない限り、この遺産の半分はレニへ、残りの半分はこの2人が相続する習わしになっていた。ところが貪欲なレニは、遺産を独り占めせんとして、 母親が死亡直前に「遺産を全部レニに譲り渡す」という遺書を書いたという真っ赤なウソの証言をした。 結局、そんな遺書は発見されず、レニは敗訴した。 これは、レニが生涯を通じて、自分の利権や立場を合理化するためにでっち上げた無数の「ウソ」のほんの 一例に過ぎないが、自分に最も近い肉親さえも騙そうとした「ウソ」として、人間として許し難いものである。私ばかりではなく、(それをもし知ったら)亡父もさぞかし幻滅したことだろう。。。
レニには確かに崇高な道徳観 (ヒューマニズム) が欠けていたが、(女性には稀れな) たくましい冒険心に溢れ、常に前向きに困難な人生を独立独歩で突き進んで行った。それが彼女の長生きの秘訣であり、人間的な魅力だった。そういう強い生命力と開拓精神が、特に日本の女性たち (男性もそうだが) に欠けているように私には感じられる。良きにつけ悪しきにつけ、読者がこの伝記 (レニの生涯) から学ぶべきことは多かろう。 Jodie Foster が監督兼主演で、先輩「レニ」の伝記映画をいつか制作したいものだと語ったことがあるという。完成したら、ぜひ観たいものである。。。
砂漠の花園【字幕版】 [VHS]
かなり以前(20年以上前)TVを付けるとデートリッヒの顔のUPが
強烈な印象で目に飛び込んだ。それより以前にゲーリークーパーとの
共演映画モロッコで、デートリッヒの妖艶と神秘性に引き込まれていた
ので、改めて目が釘付けになった。途中からの鑑賞だったのでストーリー
全般は解からないが大方のあらすじは理解出来た。それよりなにより
ストーリーうんぬんより、デートリッヒの魅惑を再認識させられた。
モロッコに続き乾いた砂漠での熱い恋の描写がなによりこの女優に
ぴったりだ。
ディートリッヒのABC
女優マレーネ・ディートリッヒの洞察力とユーモアに飾られた、
全ての女性に贈る愛すべき本です。
痛快でたまらない項目、耳が痛い項目、
共犯者のように薄笑いを浮かべたくなる項目、
もちろん個人的に気にもかからない項目もありますが、
短い文章から経験豊富な女の知恵を見ることができます。
スペイン狂想曲 [VHS]
ディートリッヒとスタンバーグ監督とのコンビ最後の作品(撮影もスタンバーグが担当)。彼はこの作品の製作中に、ディートリッヒとのコンビ解消を発表した。悪女のスペイン娘コンチャ・ペレスをディートリッヒが演じ、彼女に身を滅ぼされる軍人役は、スタンバーグ自身ではないかと言われている。マレーネのメーキャップは、それまでと一変し、柳のような眉と肉感的な唇になり、ディートリッヒの美貌は一段と過激になった。スペイン娘の衣装は、もちろんトラヴィス・バントンのデザインで一級の芸術品である。カリカチュアされた、マレーネの演技は眼を見張るもがあり、彼女自身一番すきな作品だったというのも納得できる。もちろんステージで、陽気に歌うマレーネも登場し、もう“ビバ・マレーネ!”と叫びたくなります。断然お勧め!
ニュールンベルグ裁判 [DVD]
判事、検事、被告人、弁護人、証人のそれぞれ
が、懸命に法廷で自らが為すべきことを為す姿が
丹念に描かれている。それ故だと思うが、勝者が
敗者を「裁く」政治セレモニーの是非・当否につ
いて、裁判の最終段階で被告弁護人のドイツ人弁
護士が鋭く衝き、また、それに対してアメリカ人
裁判長が誠実に自分の所見を返す場が、取って付
けたように浮き上がることなく、自然な展開の中
で現れでてくるのだろう。
違う法廷では(たぶん同様の罪状で告発された)
被告達に無罪や軽罪の判決が下され、ドイツ大衆
の歓心を買ったこと。
本作制作時の1960年(昭和35年)段階で、一人
の服役者も残っていないこと。つまり、この法廷
で終身刑を宣告された4被告が自由の身になって
いること。
何気ないセリフの端々やエンディングキャプ
ョンで淡々とこうした重要な事実が語られる。裁
判は法廷の中での手続きが終わった後、法廷の外
の諸々に結末が委ねられるのだということが、か
えって冷然と伝わる。
ほぼ全編が英語であるため、ストーリー展開の
上で流れがスムーズにいき過ぎているのは、制作
上致し方なかったことなのだろう。実際の裁判の
場ではあったはずの意思疎通のトラブルや通訳が
入るためのタイムギャップは捨象されている。
今の映画人達なら、国際裁判のこうしたもどか
しいところをどのように扱うであろうか。