駅 STATION [DVD]
ここに描かれているのはニッポンという風土に生まれた男の生き様である。また、女の性である。多かれ少なかれ風土に根ざした生き方しかヒトは出来ないことが痛感される。今のニッポンは不況とはいえ、うわっついた風潮が表立っているが、この作品を観て少しはものの哀しさ知れば少しは暮らし易い環境に成るかも知れない。作品中の時代より今はマシだと錯覚している我々は、思い知るのがいいだろう。
誰もが思い当たる節を作品中に観るだろう。泣ける貴方はまだまともなヒトさ。
八甲田山 特別愛蔵版 [DVD]
文字通りの大作です、そしてカメラマン木村大作さんの映像世界としても大作(シャレじゃなくて)CGなど使えない時代に格闘するように撮られた映像からは迫真の怖さが伝わってきますし、発狂する兵士やうまく小便ができないために倒れてしまう兵士などのエキストラたちの演技もすばらしいです。
物語の中心となる北大路さんの哀しいまでの中間管理職的立場がよく描かれています。そして権威というものをはき違えたリーダーの典型と、計画的に事を成し遂げるリーダーの違いを見せてくれる映画です。金目当てか?と案内人を追い返すのと比較して「案内人殿に敬礼!」と敬意を表す高倉健などなどわかりやすい構成になっています。
人間ドラマとして主役二人の掘り下げ方についてはこの長い時間でも足りないものがありましたが、それ以外はやはり日本を代表する映画のひとつという風格のある作品。
ミスを犯しても助けられる人と、人を助けるために倒れていく人がいたんだな…などと思いをめぐらせる映画でした。
刑務所の中の中学校
TBSドラマ「塀の中の中学校」を見て感動。原作本があることを知り、すぐに注文。
届いたその日で、一気に読んでしまった。
日本で唯一、刑務所の中の中学校。様々な事情から義務教育を終えることの出来なかった受刑者が全国から集まる。
3年間のカリキュラムを1年で学ぶ。一日の勉強時間は7時間。昼休みは午前・午後に各15分だけ。夏休みも冬休みも無い、日本で一番勉強する中学生である。
この本を読むと、勉強とは「義務」ではなく「権利」なのだと、改めて感じるだろう。
そして「学ぶ事が喜び」であり「教育の欠如が犯罪や貧困に繋がる」ということも。
角谷先生は大学卒業後、何の迷いも無く桐分校に着任され、以後35年間そこで教え続けた。
「自分の学問を反映するのはどこなのか。今、もっとも教育を必要としている人は誰なのか。もっとも学ぶべき、学ばなければいけない人は誰か。」
その問いかけを自らに向け、桐分校へと導かれたのだ。
罪を償うこと。それは本日が自分の罪の深さを知り、再びそのような事をやらないという心が生まれてそれを実践すること。
この心が生まれる、実践を生み出す為にも教育が必要だと、角谷先生は説く。
日本一勉強する中学生を支えていたのは、日本一厳しく、日本一深く生徒を愛する先生だった。
桐分校と角谷先生の存在こそが、多くの受刑者達の再犯を防いで来たのだろう。
桐分校を作り、支え、今日まで守って来た全ての人に、そしてこの本を書いて下さった角谷先生と、この本を出版して下さった、しなのき書房の皆様に心からお礼を言いたい。
そして私も、いつの日か桐分校を必要とする人が一人もいなくなる社会が来る事を願っている。
瀬戸内少年野球団 [VHS]
夏目雅子の清冽な美しさが光り輝く。
戦後の混乱の中、強く逞しく強かに、人々は生き続ける。
夏目雅子
郷ひろみ
伊丹十三
岩下志麻
山内圭哉
佐倉しおり
大森嘉之
大滝秀治
加藤治子
渡辺謙
ちあきなおみ
島田紳助
内藤武敏
名優達の個性溢れる熱演は素晴しい。
ストーリー展開の巧みさ、ダイナミックさは絶品。
日本映画の金字塔と評価すべき傑作。
春との旅【DVD】
一人の老人が家を飛び出す。それを追いかけるまだ未成年の孫娘、春。春の祖父、忠男を演じる仲代達也がいい。なんでも春頼みの忠男の身勝手と思える振る舞いは、我々の抱く映画を見ているという距離感を見事に吹き飛ばし、我々の心は春の心と共鳴していく。春が独立できるよう自分が兄弟のもとに身を寄せることを思い立った忠男だが、彼の性格と過去、そして兄弟達を取り巻く事情に邪魔されうまくいかない。ところがそんな不毛なやり取りの中、忠男と兄弟達の間に通い合う血縁の情を春は敏感に感じ取る。離婚で父を、自殺で母親を失った春の心の傷は深い。自棄をおこしそうになりながらも邪険に扱われる祖父こそが唯一の肉親であることに気づき気持ちが回帰していく春。そんな彼女に旅すがら祖父だけが知る父母のエピソードがポツリポツリと語られる。春の心に芽生える新たな感情。こんなストーリーを名優達の演技が生む空気が大切に紡いでいく。物語はすべてを語らない。しかし、満点には程遠い祖父と春がした旅が彼女にどれだけ大きな人生経験を与えただろう。彼女をどれだけ成長させただろう。エンドロールが上がりきってしまっても熱い思いと深い余韻を残す好作品である。