戦時輸送船ビジュアルガイド 2―日の丸船隊ギャラリー
待望の第二巻が出ました!
これは月間モデルグラフィックスで人気連載されていた「日の丸船隊ギャラリー」を再構築したもので、知っている方も知らなかった方も楽しめるような作りになっています。
なんと言っても、戦時の花形である戦闘艦ではなく、その戦いを裏で支えてきた輸送船にフォーカスしているのがすごいところです。
三部構成となっており、一部では輸送船の模型作例を紹介しつつ、その船の建造された背景や造船技術などの紹介がされています。
大まかに客船と輸送船にわけられ、それぞれも航路や目的別にまとめられ、とても読みやすい構成となっています。
第二部では、模型雑誌としてはなかなかないと思いますが、太平洋戦争について「輸送」の観点からの考察を試みています。
もちろん、模型の作例写真もあります。
表にはなかなか出てこない、裏方的な輸送作戦を主に取り上げているようですが、「戦争」が単なる武力同士の殴り合いではないという当たり前のことがあらためてよくわかります。
文章量は多いですが、非常に貴重な資料ではないかと思います。
第三部では1/700原寸の三面図、45点を掲載。
模型制作の貴重な資料になると思います。
残存資料が少ないため、推測部分も多くなっているようですが、「細かい部分がわからないので、なかなか製作に踏み切れない」という方には参考例としてとても役に立つのではないでしょうか。
個人的に面白いと思った部分を紹介しておきます。
まず、戦時標準船。
第一次と第二次のものでは戦況の変化から大きな違いが見られ、このあたり、海運業界と国とのいろんな絡みが垣間見られます。
そして、簡易空母。
陸軍と海軍の綱引き的なやり取りから生まれた有名な「あきつ丸」をはじめ、商船を空母に改造するという造詣の妙と言いますか、その変遷は大変興味深いです。
第二部からは、
197船団の遭難。
歴史的な海難事故ですが、戦闘ではなく台風によって引き起こされた遭難事故です。しかし、戦時ゆえに起こりえた特殊な事情がその裏にあり・・・というような、とても興味深い記事となっています。
小笠原防備輸送。
1944年8月、4804船団が硫黄島輸送を試みるも全滅。旗艦「松」の壮絶な最後などもありますが、日本軍の硫黄島での激烈な抵抗はこれらの輸送作戦が支えていたということです。
最後に、石油船団の終焉。
当たり前のことですが、燃料がなければ船は動きません。国内での生産活動もほぼ停止してしまいます。
その重要な石油資源を運んでいたのがタンカーをはじめとする石油船団です。この輸送船団の壊滅が実質的には日本の敗戦であったと言えるでしょう。
歴史の表舞台では戦艦の壮絶な戦いが取り上げられますが、こうした船舶輸送の視点から見ると、また別の歴史が見えてきます。
模型制作の面白さのなかに、そういった歴史の持つ重み、深みを感じられるような気がします。
本書は、そういった更なる面白さを艦船模型制作にもたらしてくれる、大変貴重な一冊であると断言できます。
補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)
具体的な数字を挙げられていて丁寧に分かりやすいので、補給の困難性の本質がどのあたりにあるのか分かるようになってきました。
どんな作戦立案者も補給の必要性を切実に理解はしていたのに、ノルマンジーの連合軍といった極めて少ない例外を除いて確保できなかった理由が、また多くの作戦が補給に眼をつむって戦局を進めた背景がわかります。
また、兵站を歴史的に考察して、補給の方法(軍需倉庫から補給を直接受けた初期の段階、ナポレオンの略奪時代、基地からの永続的補給時代(馬車、鉄道、自動車))の興味深い実例が淡々と述べられています。
最後の「知性だけがすべてではない」という章に著者の結論と現代の軍隊の問題がまとめて極めて論理的演繹的に述べられていますが、ここはぜひ自らお読みください。
クラウゼビッツの戦争論をはじめとする、中公文庫のこのシリーズは良い本が多いですね。
名将に学ぶ 世界の戦術 (図解雑学)
すばらしい!
著者は過去の著作でなにやら怪しいものを書いたようですが、
本作は著者のその職業的知識に基づいた素晴らしいものになっています。
本の構成としては、始めに「戦術とは何か」を述べて、その後に
各章ごとに攻撃、防御、後退・遅滞、奇襲・急襲・強襲と分けて
戦例を見ていっています。
合計46戦例、日本古戦史から収録されているものが意外多かったのも
自分的には評価増しです。
見開き1ページごとに必ず図があるので理解しやすいですが、
戦術のための戦史なのでただ戦史を読みたいという人には
合わないかもしれません。
あと日本で定説とみなされている視点に沿って書かれています。
『戦術と指揮』と学研アーカイブ『戦術入門』を読んだ後で、
『名将たちの決定的戦術』とともに読むべき本ではないかと思います。
文句なしの星五つ!