赤塚不二夫 天才ニャロメ伝
この本は、長谷邦夫さんが漫画で描いた赤塚不二夫さんの一生です。
長谷邦夫さんのお名前は以前より知っていたのですが、赤塚不二夫氏と殆ど一心同体といっても良いほどの長いコンビを組んでいた方であるというのは寡聞にして知りませんでした。
思い返せば赤塚氏のヒット作は、非常に息の長い連載モノでした。
その殆どすべてにかかわり、アイデアを一緒に考えていた方が長谷さんでした。
ほぼ一生の大半を赤塚氏と共に過ごしてこられて、その視線が尊敬と慈愛に溢れているのが泣かせます。
フジオプロからはその後の人気作家が大勢出てきますし、赤塚氏を慕う人も大勢おられます。
赤塚氏の、なんでも受け入れてしまう才能と作風が影響しているのでしょうか。
赤塚氏は、トキワ荘を出てから、性格がどんどん変わって弾けていったということのようです。
面白いギャグ、アイデアを探すために様々なことを試してゆき、それがどんどんエスカレートしていきます。
手塚治虫氏の作品に憧れ、ナンセンス・ギャグという世界を開拓した人であった赤塚氏は、その世界に踏みとどまるために、命のすべてを費やしたのではなかったでしょうか。
赤塚氏の晩年は、まんがを大きく外れていき、自らナンセンスの中に身を置いたように見えるのですが・・・。
天国では、手塚先生や藤子F氏や石ノ森氏と再会できたでしょうか。
氷の世界
詩人としての狂気さ、研ぎ澄まされ鋭い感性、どの曲も本当に天才の作品なわけですが、やはり「氷の世界」は邦楽史の金字塔ですよね。
恐ろしく凍えるような部屋の風景に、想起させるリンゴの赤と風に舞う叫び声、これらことばが描きだす絵は、まるでダダイズム、すさまじいインプレッションです。「氷の世界」の描写は永遠に残る前衛アートそのものでしょう。
そのサウンドもまた非常にグルーヴィでファンキーですし、改めて敬意を抱きます。70年代の日本のミュージシャン、ジャズやポピュラーシンガーなど全てこの時代の人たちの作品は、
飛びぬけて創造的なものが多いと思いますが、「氷の世界」は象徴とも言えるのではないでしょうか。
そして「氷の世界」はこのとき既にロックの頂きに君臨していると私は思います。よくロックを語ると教条主義に陥りそうですが、この「氷の世界」に関しては全てが、これぞロックだと思えます。
まあフォークとかロックとかジャンルでくくるのはナンセンスなのですが、
しかしここにこそロックがあるような気がします。これ以上の日本のロックって、、まあ数少ないでしょう。
ところで密かに「氷の世界」はプログレや昨今のロックの最前線にも及ぶ気がして、ぜひトム・ヨークなどに聴かせてみたいなと思ってしまいます。
漫画に愛を叫んだ男たち
一気に読んでしまいました。漫画という世界の奥行きが一段と深くなるような思いがしています。
著者の長谷邦夫氏のお名前は以前から知っていましたし、独特の風貌でよく作品に登場されるので印象も強く持っていました。
この作品は、その長谷邦夫さんの「まんが道」であり、盟友、赤塚不二夫との出会いから別れまでが時間経過と共に記された自叙伝です。
まず、トキワ荘の体験記が抜群に面白いです。
著者は、石森章太郎氏が呼びかけた東日本漫画研究会で赤塚氏と知り合います。石森、赤塚の二人のいるトキワ荘には入り浸っていたそうです。
藤子不二雄A氏の「まんが道」にはあまり登場しない部分です。トキワ荘のエピソードは執筆者によって視界が異なっていて、相違を知るとトキワ荘の物語に奥行きが加えられてゆく感じです。
トキワ荘のメンバーが起こしたアニメスタジオ・ゼロにも参加します。次いで赤塚氏のフジオ・プロに入り、ブレーンとして、アシスタントとして、代筆作家として、もう一人の赤塚不二夫として昭和を生きぬきます。
赤塚名作品と長谷邦夫名作品を使い分けていたのだそうです。
長谷氏は、SF同人誌で有名な「宇宙塵」にも参加していて、星新一、小松左京、筒井康隆等と交流を持ち、SF、パロディ作品を自分の分野として確立します。
ジャズにも造詣が深く、山下洋輔トリオの演奏には毎週通っていて、後にタモリとの出会いをお膳立てしたのも長谷氏でした。
井上陽水の「氷の世界」の一曲に歌詞も提供しています。
長谷氏自身、マルチな才能の持ち主です。そして、これほどの人が惚れ込んだのが、赤塚不二夫でした。
赤塚氏の晩年、作品が殆どかけなくなってスタッフが一人、また一人と去ってゆきます。その間、フジオ・プロを支え続けます。
長谷氏の気持ちに変化を与えたのは、手塚治虫氏の死でした。憧れの人が作品を発表し続けている間は、自分の青春が続いていると思っていた、とお書きになられています。
その頃、赤塚氏のアルコール依存症は、うつ病克服の手段ではなかったかと思い至ります。恥ずかしがり屋で照れ屋の甘えん坊の赤塚不二夫が、変貌して行く姿を追いつつ、そのことに気がついたのは、赤塚氏が作品を描けなくなったときでした。
日本の漫画がこれほど読者を魅了しているのは、長谷氏を含めて「漫画に愛を叫んだ」人たちがたくさんおられたからこそだと思います。
その多くの漫画家たちを群像として捉えた作品だと思います。
漫画の構造学!―マンガ・まんが・漫画・劇画・万画・コミック・ポンチ絵「分析ノート」
■長谷邦夫(ながたに・くにお)さんは、かつて『COM』や『ヤングコミック』でパロディ漫画を発表し、根強いファンを持つ漫画家だ。
■本書は、「漫画学」の教科書である。あとがきによると本書の由来は次のようなものだ。長谷さんは、大垣女子短期大学、椙山女学園大学などで「漫画学」の講師をしておられるのだが、氏が初めて大垣女子短大からの依頼で98年4月から講義をするにあたり、教科書として適当な書物を探したが、今のわが国にそういう本はなかった。それで、自ら詳細なノートを作って、授業に臨むことになった。それをまとめたのが本書というわけだ。
■漫画の歴史や、コマ割り、登場人物の表情などの表現方法に至るまで、実作者ならではの視点と分析、語り口が絶妙である。
■長谷さん!は90年代半ばに、データハウスから『ニッポン漫画家名鑑』(94年3月)、『ニッポン名作漫画名鑑』(95年2月)、『ニッポン漫画雑誌名鑑』(95年6月)という三部作を出版しておられるが、それらを企画編集したのが田中立美さんという編集者だった。本書の版元・インデックス出版はその田中氏のおこされた出版社なのだ。すべての長谷ファンは、『パロディ漫画大全』(水声社)と共にぜひ本書もお読みいただきたい。