オリーブの樹の下で
アコースティックユニットと銘打っているのでスイート路線かと思ったが,クリスタルナハトにも通じるコンセプトアルバム.ほとんどの曲が元日本赤軍リーダー重信房子の作詞で,娘のメイも母への思いを歌う.詞の世界にやや広がりが乏しい感もあるが,経験に基づくだけに実感がこもる.近年のPANTAのアルバムの中では出色のできだと思う.
ジャスミンを銃口に―重信房子歌集
稚拙と言わざるを得ない歌も含まれてはいる。しかし短歌という表現法は日本文芸の中で最も技術より心に重点を置きうる手法であり、この歌集は技術的問題を差し引いても充分鑑賞に堪えうると言えるだろう。
短歌はまた読者自身の心の鏡でもある。この歌集の歌に己の来し道と現在を映して読む人も多いだろう。良い短歌ほど鮮明に読者自身を映し出す。
今、日本社会は何やらつかみ所のないムード的な右傾化を始めているが、重信房子のような凛とした革命指導者の覚悟と愛と孤独の心情を受け取ることは、左右を問わず多くの人々に意味のあることだと思う。特に若い人たちに、歴史性を理解する面で難しい点もあるだろうが、ぜひ読んでもらいたい。
「打倒せよ」と叫びし日々はこの国の勢いありて希望ありし頃
りんごの木の下であなたを産もうと決めた
たぶん40代後半以上の人は、同時代をすごしたために彼女を率直に見ようとはできないでしょうし、それ以降の若い世代の人々は、マスコミ・政府が作り出した言説のフィルター(なにしろ洗脳教育ですからね)を通してしか見ることはできないでしょう。まあ、人は誰しも他人を見るときに自らの経験・地位・思想などなどから自由になれないのですが、彼女の場合はそれが極端であるだけに、彼女自らが語るこの本の出版は、そうしたフィルター自体を検証するためにも有意義だと思います。ただ、法務局への上申書を出版したわけで当然素直な心情の吐露ではないのでしょうが、それでも、この本には他人への愛情(それへの価値付けは読書の際は保留しましょう)にあふれる彼女の魅力があふれています。とても上質な自伝だと思いました。あまたのくだらない本よりはよっぽど価値があります。
秘密―パレスチナから桜の国へ 母と私の28年
パレスチナで生まれ、無国籍のまま生きてきた彼女は、母である重信房子が日本で逮捕されたのをきっかけに、日本国籍を収得し日本にやって来る。日本では「テロリスト」として扱われているが、重信房子はパレスチナでは敬愛される「英雄」だったという記述は興味深かった。