債権法の新時代―「債権法改正の基本方針」の概要
債権法の実務は、残念ながら出てこないが、たとえば2008年に商法から保険法分野が独立して施行されたとか、債権法の改正議論の素案は本書の紹介のごとく出来たが、まったくの民法学者の自発的意思による改正案作りであって、法務省は場を提供しただけで、将来の改正のたたき台になる議論を民法学者が最新の叡智をもってまとめたに過ぎないとか、様々な知見を得られた。また、内田先生も教官職を辞され、法務省に籍を置かれるようになった、など、内田信者なら必須の情報もでている。「新・債権法」が出来る時、我妻民法から内田民法へと完全移行があるだろうと予感させる一書である。
日本人は誰も気付いていない在留中国人の実態
著者は東大法学部を卒業した外交官。現在は入管担当課長という実務家。
いわゆる在留中国人について、入管法・外国人登録法、華僑紙の記事など、わかりやすく概説されている。日本に滞在している外国人のなかで中国人が現在最大勢力だという。我が国でも、多文化共生が当たり前になる時代が来るのだろうか。著者の展望は前向きでとても楽観的に感じられた。
たしかに、明治維新に共鳴し我が国に清朝や中華民国から留学生が多数訪れた。孫文、魯迅、周恩来など歴史に名を残す人物も含まれる。現在の留学生のなかにもそういう人物がいるかもしれない。日本に失望した反日中国人が増えるより、知日派が増えてもらえるのであれば我が国の国益にもかなうことだ。
ただし、他国人との共生には、我が国国民として自律した精神を涵養することが必要だ。トップエリートの方々は当然備えている資質だが、草の根国民には難しいことではないか。仮に、我が国が多文化共生社会に直面するにせよ、自他の区別がはっきり出来ないと、国民は振り回されて拒絶感情がひどくなるだけだ。
通常なら取っつきにくい法律なり統計なり当事者の生の声なりを、著者は読者に理解しやすく提供されている。本書は在留外国人問題を考えるうえで有益な本だと思われる。