厚生労働省崩壊-「天然痘テロ」に日本が襲われる日
この本のサブタイトル「天然痘テロに日本が襲われる日」が気になって本を買って読んだ。新型インフルエンザも恐ろしさ以上に天然痘テロは恐ろしいことは歴史が物語っているからです。この本は暴露本では決してないということだ、ましてや、著者は厚生労働省が崩壊すれば良いと言っている訳でもない。年金問題一つにしても厚労省に大きな疑問を感じている国民は大勢いる。誰も予想もしていなかった人物が突然彗星の如く現れ、アメリカ大統領にオバマ氏が選ばれた。もはやアメリカの国民は国を無条件に信じられなくなったからであり、これまでの大統領の力そのものが大きく低下した結果だろうと思う。それだけに新大統領に可能性を求めたのだろう。日本国民も、恐らくこのままでは日本はうまく行かないと思っているはずである。著者が立場を超えてこの本を書いたのは、もし天然痘テロに襲われたなら国民は大混乱に陥り、多くの犠牲者を出すことになることは間違いない、その事を知ってもらいたいという、已むに已まれずの気持ちから書かれたのだろうと推測する。何度も左遷の憂き目に会いながらも、何とかしたいと言う思いから周囲の人たちに公衆衛生の大切さを知らしめる努力をされたことに頭が下がる思いです。著者の父親のことが書かれていたが、実に素晴らしい方だと思う、その娘さんが信念と人間愛に満ちた気持ちで頑張っている姿を思うと涙が出そうになる。
厚労省と新型インフルエンザ (講談社現代新書)
前作よりも今回はH1N1-Swine Fluの実際をreferした分だけ読みやすくなった。第1章は新型Fluと厚労省迷走記、第2章が著者が鋭く指弾する「行動計画」、第3章はSwine Fluの初動体制、追跡調査、学校閉鎖、マスク、タミフル、ワクチン等々具体的な公衆衛生学。第4章は疫学の基礎知識という著者専門分野。記述内容は非常に難しい。第5章は「これからのインフルエンザ流行に備えて」で良く書けている。ただ本書は良い点と悪い点との混在が非常に残念だ。まず本書は第3・4・5章で出版すれば良かった。一方で第1章は相も変わらず著者自身の不遇、検疫所と本省の人事、医系技官の危機管理能力のなさ、臨床経験のなさ、公衆衛生学のプロ不在につき舌鋒鋭い批判を展開する。第2章は御用学者との馴れ合い、医系技官のコンプレックス、無意味な空港検疫等々、あたかもTVタックル出演発言の如く続く。検疫所ポストは左遷ポスト、いるのは上司と衝突した組織の問題児、精神的に問題の人間、出世街道を捨てて定年間近職員の集まり、キャリアとノンキャリの違い、本省ではない検疫所採用事務官の昇任の限界等々の表現は、我々読者は正直言って聞きたくない。著者は本省中途採用とのことだから検疫所の職員にも失礼だろう。巻頭に「本書を亡き恩師、Dr.George Comstockに捧ぐ」としているが博士も聞きたくなかったはずだ。それより著者の専門性から、これからの水際作戦と危機管理と国内同時対応をどうすべきか、「行動計画」はどうあるべきか、公衆衛生学のプロ養成の最善策は何か、検疫法や感染症法がダメなら、危機管理感染症法をどう立法化すべきか、地方自治体に任せ柔軟な対応可能な体制作り、バイオテロ、生物化学兵器、人類滅亡への道、こういうissuesについてより膨らませて聞きたかった。次回は是非に「著者自身の不遇・不満」、「医系技官と公衆衛生学プロ養成」、「危機管理」等に分冊しての出版を期待する。