バッハ:作品集(セゴビア編曲)
何といってもセゴビアのバッハでは BWV1004シャコンヌ にとどめをさす。バッハは一体何回生きながらにして地獄というものを見たのだろう、と涙にくれる凄絶な演奏である。地獄、といえば無伴奏チェロの5番もかなり近いものがあるが、同曲をビルスマがバロックチェロでさらっと流しているのに比べてどうだこのセゴビアの広大な世界観は!実際のところ、セゴビアのシャコンヌを聞いた後では、いかなるヴァイオリニストの演奏も聞きたいと思うことが出来ない。それほどインパクトのある演奏である。途中でニ長調に転調して最後に再びニ短調にもどることによってことさらに絶望感を高める、というバロック独特の「止揚的レトリック」がここでは機能していないほど、全体を絶望感が覆っている。長調なのに明るくないのである。古楽だとかクラシカルだとかいう様式観を超越して、ただただ圧倒されるだけである。もうこのような名演は、今後もありえないだろう。
どうしてもヴァイオリン版で、ということであればやはり天才・ハイフェッツの演奏をお薦めしたい。他のヴァイオリン奏者とは「一線を画した」深い音楽である。ただし、セゴビアのものと比べると、あのハイフェッツですら何やら物足りない。
ピアノ版のシャコンヌも出ているが、セゴビアに勝るものはない。ブゾーニの編曲はまるでコンチェルト/マーチのようにしてしまって最低最悪で、何か大きな勘違いをしているとしか思えない。
声高に叫べば叫ぶほど人心から離れる真実というものがあるのだという真理を、このピアニストは知らない。
敢えてどうしてもピアノ版で、ということであればブラームスがクララ・シューマンのために編曲した「左手のためのシャコンヌ」はかなりいい出来である。最近のU−Tubeでアナトール・ウゴルスキーの名演が聞ける。このピアニストは大変な苦労をした人で、きっと当時のバッハに共感するものがあるのであろう、シャコンヌの深遠な悲哀・絶望感を見事に演じきっている。ただしやはりセゴビア版ほどではない。
以上、必聴の名盤。ただし自殺願望のある人やうつ病の人は購入しても聞かずにしばらく置いておいたほうがよい。背中を押される危険がある。
セゴビアの芸術
セゴビアが他のギタリストよりもすぐている一番の点はその音色にあると思います。彼は様々な音色を一本のギターからかもし出します。それはまるで人間が語りかけているようです。優しく語りかけ、激しく語りかけ、悲しく語りかけ、楽しく語りかけてきます。一つ一つの言葉に意味があるように、彼の一つ一つの音にはすべて意味があるようです。よく聞くとひとつとして無駄に演奏されている音はありません。一つ一つの音がすべて語りかけてきます。セゴビア自身がわたしたちにコミュニケーションを求めて来るようです。彼のギターの音の中に自分の身を置き、時間を超えて彼の語りかけを聞くことができる、そんな名盤の一つであると思います。
セゴビア編による ソルの20の練習曲
練習曲で何か良いものはないかと探しているときにこれを見つけました。
1曲1曲そうたやすく克服できるものではありません。地道な努力を要します。しかしそれぞれにクラシックギターを弾く上で重要な要素が詰まっており、確実にレベルアップできます。私もまだまだすべてを弾けるわけではありませんが、必ずこの一冊を終えたいと思っています。