一夢庵風流記 (新潮文庫)
時代小説をよく読む。特に隆慶一郎が好きだ。
モチーフのど真ん中に、特異な仮説をドーンと打っ立てて、そのくせ描写はやけに柔らか。
初めて読んだのは本書「一夢庵風流記」だった。
本当なら「影武者徳川家康」辺りから入るのが王道なのかもしれないが、何となくタイトルに惹かれて手に取ったような記憶がある。
とにかく前田慶次郎という男が、その破天荒な生き方が、その武辺の陰にある繊細な感性が、とにかく面白く、そしてもの悲しくなった。
終幕前の雨の中で直江兼続を見送る情景が、今でも思い浮かぶ。
思うに隆慶一郎の魅力とは、登場人物に注がれる作者の温かい視線が、行間から感じられるところにある。
そんな愚見はともかく、あくせく働く中で、ふと読み返したくなる一書であることは確かだ。
影武者徳川家康〈上〉 (新潮文庫)
堂々の全3巻、
傑作。
満天の星が飛ぶ。
小説を読むことがカイカンだとストレートに教えてくれる。
独善的なブックレポーターの出番なし。
あとは、新作が読めないことを嘆くだけ。
隆慶一郎がいなくなり、
今は、時代小説の棚を素通りする。
かといって、
コミックスコーナーへ急ぐのもどうかと思うけど。
影武者徳川家康〈下〉 (新潮文庫)
終焉に向かって動き出すチーム二郎三郎。
歴史の流れに最後まで抗う姿に、隆慶一郎の「滅びの美学」を見た。
読めば読むほど、これが歴史の真実ではないかと思わざるを得ない。
小説はかくあるべし。
最後に、本書の装丁に賛辞を贈りたい。
色使いも落ち着いており、イラストはまさに影武者を思わせる。
こんなに小説の内容とあっている装丁はめずらしい。