増山たづ子 徳山村写真全記録
本職のカメラマンでもないおばあさんが自分の故郷を写真に収めた一冊―それで、この本にたいした期待はしなかった。ただテレビで見た幾つかの写真が息を呑むほど美しかったので、興味を示したのだった。だが実物を見てみると、ただダムに沈んだ村の最後の記録というお涙頂戴本ではなかった。どの写真も、本当に美しいのだ。増山たづ子さんは被写体に対する愛おしさや寂しさだけでなく、生来の素晴らしいセンスもお持ちだったのだ。写真をただ見ているだけでも時間が経つのを忘れるが、そこに添えられた文章の素直さ、温かさがまた喉元を熱くしてくれる。疲れているときこの本を眺めると、人間の存在が自然のなかにすっぽりと入っているものであることを実感させてくれるので、何だかとても楽になる。そしてまたこの美しさがすでにないことを考えると、心に穴が空いた気分にもなる・・・。