自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)
上巻はイントロダクションですね。作者も最初は「泣ける!」なんて言われることを
まったく意識してなかったことがうかがえる「ギャグ」です。
けれど、このイントロダクションがないと最後にはつながらない。
この業田良家という人は、他の作品もそうだけど、
基本をギャグに置きつつ「人間の悲哀」を描くことに傑出した漫画家です。
もっと評価されるべきだ!と個人的には強く思います。
なんか戦後から70年代?を思わせるのは、状況設定とか以上に、
登場人物たちがあまりにも「人間の業(ごう)」そのままで、
最近こーゆーひと見かけないよねぇ…という感じだから。
「こーゆーひと(極端だけど)いるよねぇ」「いそうだよねぇ」
と笑いながら、さぁ、下巻へどうぞ。
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それにしても、中谷美紀のシリアスとコメディの演技上のバランス感覚は素晴らしい。ヒサンではあるが、ドロドロした気分にはさせない。
一方、寡黙でケンカ早い夫役の阿部寛はもちろん良かったし、コメディパートでも「トリック」よろしく上手いです。
豪快に卓袱台をひっくり返す場面が、VFXを効果的に使い楽しく手を変え品を変え続き観客を笑いに誘います。堤幸彦監督らしいバタくさい映像がいいですね。(笑) テンポの早い展開もいい。
後半部では、幸江とイサオの出会いなどが回想シーンとして挟みこまれます。イサオは、どうして中谷美紀と暮らしているのか、幸江はどうしてイサオにここまでして尽くしているのか、前半部の謎が、明らかとなってくる。
そして、幸江の恵まれなかった少女時代への回想シーンとなり、お涙頂戴的な展開へとなってきます。脇役も含め各キャラが魅力的に描けているから、この前半部との大きなギャップの切り返しは鮮やかに決まりましたね。
幸江の継母のキャラがすごい。演じる名取裕子がいいんだな、「あぁ、貧乏くせー」が口癖で。(笑) 彼女はTVでの、女検事などのシリアス演技ばかりかと思ったらこんなコメディリリーフもやるんだ。
中学校では、貧乏故に皆に蔑まれてしまいます。唯一の友達は、ワイルドで寡黙で幸江にも増して貧乏な熊本さん(丸岡和恵)しかいません。この貧乏をものともしない熊本さんとのエピソードが素晴らしい。
そんな幸江ですが、東京に出て行くことになります。それからイサオとの出会い...。
前半部は笑いを中心に、後半にはしんみりと、という構成で、なかなか見応えがありました。お約束ながら、やっぱり泣けました。
短篇集hi mi tsu ki chi ヒミツキチ (ビッグコミックススペシャル)
大満足の短篇集。
他のレビュアーの方がおっしゃっているように、
一枚画と文章だけ参加の方もいますが、
それを差し引いても十分な価値。
どの短篇も本当に心にじわっときて、あたたかい気持ちになります。
個人的には業田良家さんと三好銀さんの短篇が特におすすめ!
造本もとても良くて、自分で持って大事にしたくなる本です。
自虐の詩 (下) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)
雑誌連載のときではなく、書籍化されてから読んだ。
上下巻あるが、上巻は主人公(幸江)が、乱暴亭主にこれでもかと虐げられる。
それでも「あんたを好きだよ」と言う幸江。
上巻だけだと、普通のギャグ4コマ漫画なのだが、
下巻の最後数十ページから思いもよらぬ展開を見せる……。
上巻と下巻は、まったく別の本だと言ったほうがいい。
下巻は「人の人生とは何か」を哲学させてくれる。そしてラストシーン……。
「日本一泣ける4コマ漫画」と言われているが、
たしかにこの最後は泣ける。
人生の奥の深さを感じさせてくれるだけに
中年の私にはぐさりと来るところもあり、泣けるところもあり、
なかなか忙しい。
業田の最高傑作であることだけは間違いなし。
読んで絶対に後悔はしないはず。